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詩論現代日本語訳

この本の概要

詩論

現代日本語訳

詩は、美しいだけでは足りない。ホラティウスがピーソー父子へ宛てた手紙は、一つの形にまとめること、人物にふさわしい言葉、やすりの労を、476行で説く。前1世紀末ローマの詩論。

『詩論』の表紙
『詩論』の表紙

この本の概要

詩論

現代日本語訳

詩は、美しいだけでは足りない。ホラティウスがピーソー父子へ宛てた手紙は、一つの形にまとめること、人物にふさわしい言葉、やすりの労を、476行で説く。前1世紀末ローマの詩論。

0101

ピーソー父子への手紙

第1行

画家が、人間の頭に馬の首を

第2行

つなごうと思い立ち、色とりどりの羽根を植え、

第3行

手足は方々から寄せ集め、その姿が、見苦しくも黒々とした

第4行

魚になって終わるとしたら――上半身は美しい女なのに。

第5行

見物に招かれて、友よ、君たちは笑いをこらえられるだろうか。

第6行

信じてほしい、ピーソー父子よ。そういう絵と瓜ふたつになるのが、

第7行

ある種の本だ。そこでは、病人の夢さながら、実のない

第8行

形象がこしらえられ、足も頭も、ひとつの

第9行

姿に収まらない。「画家と詩人には、

第10行

何を試みるのも、昔から同等の権利があった」。

第11行

知っている。その特権は、こちらも求めるし、互いに認め合ってもいる。

第12行

だが、穏やかなものに猛々しいものを交わらせるためではないし、

第13行

蛇を鳥とつがわせ、子羊を虎と組ませるためでもない。

第14行

重々しく始まり、大きなことを約束する作品には、たいてい、

第15行

遠くまで照り映える紫の布きれが、一枚、二枚と、

第16行

縫いつけられる。ディアナの森と祭壇や、

第17行

心地よい野をめぐって急ぐ水の流れや、

第18行

ライン川や、雨の虹が描かれるときが、それだ。

第19行

だが今は、それらの出る幕ではなかった。なるほど君は、糸杉なら

第20行

描き写せるのかもしれない。それが何になる、望みを断たれた男が、砕けた

第21行

船から泳ぎ出すところを、金を出して描かせているのなら。甕を作り

第22行

はじめたのに、ろくろが回るうちに、なぜ水差しになって出てくるのか。

ろくろの上で、甕になるはずの粘土が崩れ、不格好な水差しへ変わっていく。
甕を望み、水差しを得る

第23行

要するに、何を作ってもいい。ただし、単純で、ひとつであることだ。

第24行

詩人の大半は――父上よ、父にふさわしい息子たちよ――

第25行

正しさの見かけに欺かれる。簡潔であろうと骨を折れば、

第26行

わかりにくくなる。なめらかさを追う者は、筋の力と

第27行

気迫を失う。壮大を掲げる者は、ふくれあがる。

第28行

用心しすぎて嵐を恐れる者は、地を這う。

第29行

ひとつの主題を、奇怪なまでに変化させたがる者は、

第30行

森にイルカを描き足し、波間に猪を描く。

第31行

過ちから逃げても、技を欠けば、悪癖に行き着くのだ。

第32行

アエミリウスの養成所のほとりでは、末席の職人が、爪を

第33行

巧みに彫り出し、柔らかな髪を青銅に写して見せるだろう。

第34行

それでも作品の総体では報われない。全体をひとつに据えるすべを、

第35行

知らないのだから。もし何かを組み立てる気になっても、私はこの男には、

第36行

なりたくない。曲がった鼻のまま生きたくないのと、同じことだ、

第37行

たとえ黒い瞳と黒い髪が人目を引くとしても。

第38行

書く者たちよ、自分の力に釣り合った題材を

第39行

選び取り、長いあいだ思案せよ。何を担いかね、

第40行

何なら担えるか、その肩に問うのだ。力に応じて題材を選んだ者を、

第41行

雄弁も、明晰な構成も、見捨てはしない。

第42行

構成の美点と魅力は、私の見立てが違わなければ、こうだ。

第43行

いま言うべきことを、いま言い、

第44行

多くはあとに回して、さしあたり控えておくこと。

第45行

約束した詩の作者は、これを愛し、あれを退けるがいい。

第46行

言葉を植えて紡ぐにも、細やかに、慎重に、

第47行

みごとに言い表したことになる、巧みな結び合わせが、聞き慣れた語を

第48行

新しくして見せたなら。もし、やむをえず、

第49行

新しいしるしで、物事の奥に隠れたものを示し、

第50行

腰布姿のケテグスたちが聞いたこともない語を作るのなら、

第51行

その自由は許され、与えられもする、慎ましく使うかぎり。

第52行

作られたばかりの新しい言葉も、信用を得るだろう、もし、

第53行

ギリシアの泉から、控えめにたわめられて流れ落ちるなら。それにしても、

第54行

ローマ人は、カエキリウスとプラウトゥスには与えたものを、なぜ、

第55行

ウェルギリウスとウァリウスからは取り上げるのか。私が少しばかりの語を

第56行

増やせるからといって、なぜ妬まれるのか。カトーとエンニウスの舌は、

第57行

父祖の言葉を豊かにし、物事の新しい

第58行

名を世に出したというのに。これまでも許されてきたし、これからも許される、

第59行

今日の刻印を打たれた語を生み出すことは。

第60行

森の葉が、傾きゆく年ごとに移ろい、

第61行

古い葉から落ちるように、言葉も、古い世代が滅び、

第62行

生まれたばかりのものが、若者さながら花開いて勢いづく。

第63行

私たちも、私たちの業も、死に負うた身だ。陸に迎え入れられた

第64行

ネプトゥヌスが、艦隊を北風から守るという、

第65行

あの王者の事業も。長らく不毛で、櫂にこそ似合いだった沼地が、

第66行

近隣の町々を養い、重い鋤の刃を身に受けるのも。

第67行

また、実りに酷だった流れを、川が変えて、

第68行

よりよい道を教わったのも。死すべき者の業は滅びる。

第69行

まして、言葉の誉れと魅力が、生き生きと立ちつづけるはずもない。

第70行

すでに落ちた語の多くが生まれ変わり、また落ちてゆく、

第71行

いま誉れの座にある語も、慣用が望むのなら。

第72行

言葉づかいの裁定も、権利も、規範も、慣用の手の内にあるのだ。

第73行

王たちと将たちの事績を、悲惨な戦を、

第74行

どの韻律で書けるかは、ホメロスが示した。

第75行

長さの揃わぬ二行を組んだ詩型には、はじめ嘆きが、

第76行

のちには、願いのかなった思いも盛り込まれた。

第77行

とはいえ、このささやかな悲歌をはじめて世に出した作者が誰かでは、

第78行

学者たちが争い、係争はいまも判事の手の中だ。

第79行

憤怒が、アルキロコスを、彼みずからの短長格で武装させた。

第80行

この歩格を、喜劇の靴も、堂々たる悲劇の厚底靴も取り入れた。

第81行

かけあいの台詞に向き、観客の

第82行

ざわめきに打ち勝ち、劇を運ぶために生まれた格だからだ。

第83行

ムーサは竪琴に授けた、神々を、神々の子らを、

第84行

勝ち誇る拳闘士を、競走で先頭を切る馬を、

第85行

若者の恋の悩みを、心をほどく酒を、歌うことを。

第86行

定められた役割と、作品ごとの色合いを守ること。

第87行

それができず、わきまえもしないのなら、なぜ私が詩人と呼びかけられるのか。

第88行

なぜ、見当違いの羞じらいから、学ぶより知らぬままでいたがるのか。

第89行

喜劇の題材は、悲劇の詩行で語られることを望まない。

第90行

同じように、日常の、ほとんど喜劇の靴が似合うような

第91行

詩句で語られては、テュエステスの饗宴も憤慨する。

第92行

それぞれのものに、割り当てられたふさわしい場所を守らせよ。

第93行

とはいえ、ときには喜劇も声を張り上げ、

第94行

怒ったクレメスが、ふくれあがった口調でまくし立てる。

第95行

悲劇の人物も、しばしば地を歩む言葉で嘆く。

第96行

テレフスもペレウスも、ともに貧しい流謫の身となれば、

第97行

大仰な言い回しも、一尺半のばかでかい言葉も投げ捨てる、

第98行

その嘆きで、観る者の心に触れたいと思うのなら。

第99行

詩は、美しいだけでは足りない。甘美であれ。

第100行

そして聞く者の心を、望むところへどこへでも連れて行け。

第101行

笑う者には笑みを返し、泣く者にはともに泣く。

第102行

人の顔とは、そういうものだ。私を泣かせたいなら、悲しまねばならない、

第103行

まず君自身が。そのときはじめて、君の不幸が私の胸を刺す、

第104行

テレフスよ、ペレウスよ。あてがわれた台詞を下手に語れば、

第105行

私は居眠りするか、吹き出すかだ。沈んだ顔には、

第106行

悲しげな言葉が似合い、怒った顔には、脅しに満ちた言葉が、

第107行

戯れる顔にはふざけた言葉が、厳めしい顔には重々しい言葉が似合う。

第108行

自然はまず、私たちの内側を、あらゆる

第109行

境遇のかたちに合わせて作る。喜ばせ、怒りへ駆り立て、

第110行

あるいは重い悲嘆で地へ引き倒し、締めつける。

第111行

そのあとで、心の動きを、通訳である舌に載せて外へ出すのだ。

第112行

語る者の境遇と、その言葉がそぐわなければ、

第113行

ローマの騎士も歩兵も、どっと哄笑をあげるだろう。

第114行

大きな違いがある。語るのが、ダウスなのか英雄なのか、

第115行

円熟した老人なのか、まだ花盛りの若さに

第116行

燃える者なのか。威ある奥方なのか、かいがいしい乳母なのか、

第117行

渡り歩く商人なのか、青々とした小さな畑を耕す者なのか、

第118行

コルキス人なのかアッシリア人なのか、テーバイ育ちなのか、アルゴス育ちなのか。

第119行

言い伝えに従うか、それとも、それ自体で筋の通るものを作り出せ、

第120行

書き手よ。もし誉れ高いアキレウスをふたたび登場させるなら、

第121行

疲れを知らず、怒りっぽく、容赦なく、苛烈で、

第122行

法は自分のために作られたのではないと言い放ち、何もかも武力で奪い取らせよ。

第123行

メデイアは猛々しく屈せず、イノは涙を誘い、

第124行

イクシオンは裏切り者、イオはさすらい、オレステスは沈鬱であれ。

第125行

もし、まだ試みられていないものを舞台に託し、あえて

第126行

新しい人物を作り出すなら、最後まで保て、

第127行

登場したときのままの姿を。首尾を一貫させよ。

第128行

誰のものでもある題材を、自分のものとして語るのは難しい。それでも君は、

第129行

トロイアの歌を劇の幕に仕立てるほうが、正しい道を行ける、

第130行

誰も知らず、誰も語っていないことを、最初に持ち出すよりも。

第131行

共有の素材も、君の私有となる。もし君が、

第132行

安っぽく開けっぴろげな円環の上で、ぐずぐずと回らず、

第133行

語を語へ写すことに励む律義な

第134行

訳者にならず、模倣者として狭い場所へ飛び降りたりしなければ。

第135行

そこからは、恥のためにも作品の掟のためにも、足を踏み出せなくなる。

第136行

昔の、あの環叙事詩の作者のような書き出しもするな。

第137行

「プリアモスの運命と、誉れ高い戦を、私は歌おう」。

第138行

これほど大口を開けた約束屋が、それに見合う何を産むのか。

第139行

山々が産気づいて、生まれるのは滑稽な鼠一匹だ。

産気づくように崩れる巨大な山の麓から、一匹の小さな鼠が現れる。
山が産み落とした鼠

第140行

どれほどまっとうか、場違いなことを何ひとつ企てない、あの詩人は。

第141行

「語ってくれ、ムーサよ、あの男のことを。トロイア陥落ののち、

第142行

多くの人々の気風と町々を見てきた男のことを」。

第143行

閃光から煙を出すのではなく、煙から光を生むことを

第144行

彼は思い定めている。そこから、目を見張る驚異を繰り出すために。

第145行

アンティファテスを、スキュラを、そしてキュクロプスとカリュブディスを。

第146行

ディオメデスの帰還を、メレアグロスの死から語り起こしはしないし、

第147行

トロイアの戦を、双子の卵から始めもしない。

第148行

つねに結末へと急ぎ、聞き手を、物事のただ中へ、

第149行

すでに知っているかのようにさらってゆく。そして、

第150行

手を加えても輝きようがないと見切ったものは、捨て置く。

第151行

そのうえで巧みに嘘をつき、真実に虚構を混ぜ合わせる、

第152行

初めと中ほどが、中ほどと終わりが、食い違わないように。

第153行

君は聞くがいい、私が、そして私とともに民衆が、何を求めるかを。

第154行

拍手役の観客に、幕切れまで居残って、

第155行

歌い手が「皆さん、拍手を」と言うまで座っていてほしいのなら。

第156行

それぞれの年齢の気風を、君は描き分けねばならない。

第157行

移ろう性分と年齢に、ふさわしさを与えねばならない。

第158行

もう言葉を返せるようになり、確かな足どりで

第159行

地面を踏む子どもは、同い年の仲間と遊びたがり、わけもなく

第160行

腹を立ててはけろりと収め、一刻ごとに変わってゆく。

第161行

ひげのない若者は、ようやくお目付け役を離れると、

第162行

馬と犬と、日あたりのよい野の草地を喜び、

第163行

蝋のように悪癖へたわめられやすく、忠告する者にはつっけんどんで、

第164行

役に立つものの備えは遅く、金づかいは荒く、

第165行

気位が高く、欲は深く、愛したものを捨てるのは素早い。

第166行

関心が移り変わり、男盛りの年齢と心は、

第167行

財産と交わりを求め、栄誉に仕え、

第168行

あとで改めるのに骨の折れることは、しでかすまいと用心する。

第169行

老人のまわりには、多くの厄介がつきまとう。ひとつには、

第170行

求めながら、手に入れたものには哀れにも手をつけず、使うのを恐れるから。

第171行

またひとつには、何事もおずおずと、冷えびえと片づけるからだ。

第172行

先延ばしにし、望みは先ばかり長く、腰は重く、先の時間に未練がましく、

第173行

気むずかしく、愚痴っぽく、過ぎ去った時代の――

第174行

自分が子どもだったころの――讃美者で、年下の者の叱り役、咎め役だ。

同じ夕光の下に、幼い子、若者、壮年、老人の四つの年齢が並ぶ。
四つの年齢

第175行

巡り来る年月は、多くの恵みを連れてくるが、

第176行

去りゆく年月は、多くを奪ってゆく。だから、老人の

第177行

役を若者に、大人の役を子どもに、割り当ててはならない。

第178行

つねに、その年齢に結びついた、似合いのものにとどまることだ。

第179行

出来事は、舞台の上で演じられるか、済んだこととして語られるかだ。

第180行

耳を通って届いたものが心を揺する力は、鈍い、

第181行

信頼できる目の前へ差し出されたものや、観る者が

第182行

自分で自分に手渡すものにくらべれば。とはいえ、内で

第183行

行われるべきことを、舞台へ持ち出すな。多くのことは

第184行

目から遠ざけ、のちに、その場に立つ雄弁に語らせるがいい。

第185行

メデイアに、観衆の前でわが子を殺させてはならない。

第186行

非道のアトレウスに、人の臓物を公然と煮させてもならない。

第187行

プロクネを鳥に、カドムスを蛇に、変えて見せてもならない。

第188行

そんなふうに見せられたものは、何であれ、信じられず、嫌悪する。

第189行

五幕より短くても、それより長く延びてもならない、

第190行

上演をせがまれ、観られてはまた掛けられたいと望む劇は。

第191行

神を割り込ませるな、解き手に神がふさわしいもつれが

第192行

生じたのでないかぎり。四人目の人物に、無理に語らせようとするな。

第193行

合唱隊には、役者ひとり分の役割と務めを、しかと

第194行

守らせよ。幕あいに歌うのは、

第195行

筋の狙いにかない、ぴたりと結びつくものだけにせよ。

第196行

合唱隊は善き人々に味方し、親身に助言し、

第197行

怒れる者を御し、いきり立つ者をなだめることを愛せ。

第198行

質素な食卓の膳を讃え、健やかな

第199行

正義と法を、門を開け放った安らぎの日々を讃えよ。

第200行

打ち明けられたことは胸に収め、神々に祈り、願うがいい、

第201行

幸運が、不幸な者に戻り、驕る者から去るようにと。

第202行

笛は、今のように真鍮で締められ、喇叭と

第203行

張り合うものではなく、細く簡素で、孔も少なく、

第204行

合唱隊に息を添え、寄り添うのに役立ち、

第205行

まださほど混まない客席を、その息で満たせば足りた。

第206行

そこへ集う民は、数えられるほどで、なにしろ数も少なく、

第207行

つましく、慎み深く、遠慮がちだった。

第208行

やがて、勝者となった民が田野を広げ、都市を

第209行

より広い城壁が抱くようになり、祭日には昼間の酒で

第210行

守護霊をなだめても咎められなくなると、

第211行

韻律にも調べにも、より大きな放縦が入り込んだ。

第212行

それも当然で、無学な、仕事から解き放たれた

第213行

田舎者が都会人に、卑しい者が立派な者に混じって、どんな目が利いただろう。

第214行

こうして笛吹きは、いにしえの技に、動きと華美を加え、

第215行

舞台の上をうろつき回っては、衣裳の裾を引きずった。

第216行

同じく、謹厳だった竪琴にも音が増え、

第217行

性急な雄弁が、聞き慣れない語り口を持ち込み、

第218行

役立つ物事に聡く、未来を神のごとく見通す

第219行

その言葉は、託宣を告げるデルフォイと変わらぬものになった。

第220行

悲劇の歌で、安値の牡山羊ひとつを賭けて競った者は、

第221行

ほどなく、野育ちのサテュロスたちを裸のまま舞台に出し、荒削りながら、

第222行

重々しさを損なわずに、戯れを試みた。というのも、

第223行

誘いと心地よい目新しさで、引き留めておくべきだったからだ、

第224行

祭儀を終え、酔って、箍の外れた観客を。

第225行

だが、笑わせ役の、口の達者な

第226行

サテュロスたちを売り込むにも、真面目を戯れに転じるにも、ほどがある。

第227行

登場を願われた神が、英雄が、誰であれ、

第228行

ついさっきまで、王者の黄金と緋衣に輝いて見えていたのに、

第229行

卑しい物言いとともに、場末の暗い店へ落ちぶれてはならない。

第230行

かといって、地を避けるあまり、雲と虚空をつかもうとしてもならない。

第231行

軽薄な詩行を口走ることは、悲劇の品位にもとる。

第232行

祭日に舞えと命じられた奥方のように、

第233行

悲劇は、少しはにかみながら、ずうずうしいサテュロスたちに混じるだろう。

第234行

私なら、飾り気のない、幅を利かせたありきたりの名詞と、

第235行

動詞ばかりを好みはしない、ピーソー父子よ、サテュロス劇の書き手としても。

第236行

かといって、悲劇の色合いから離れようと励むあまり、

第237行

区別を失いもしない。語るのがダウスなのか、

第238行

シモをまんまと欺いて一タラントンせしめた、大胆なピュティアスなのか、

第239行

それとも、育て子の神を守り、仕えるシレヌスなのか、という区別を。

第240行

私が目指すのは、よく知られたものから紡いだ詩だ。誰もが、

第241行

同じことを自分にも望み、大いに汗をかき、むなしく骨を折る、

第242行

同じことに挑んだ誰もが。配列と結び合わせには、それほどの力があり、

第243行

ありふれたところから汲んだものにも、それほどの誉れが加わるのだ。

第244行

森から連れ出されたファウヌスたちは、私に言わせれば、用心すべきだ。

第245行

まるで街角の生まれの、ほとんど広場の住人ででもあるかのように、

第246行

甘やかにすぎる詩行で若者ぶることも、

第247行

汚らわしく恥ずべき言葉をがなり立てることも、あってはならない。

第248行

馬と家柄と財産を持つ人々は、それに眉をひそめ、

第249行

炒り豆や木の実を買う客のお気に召したものだからといって、

第250行

平らかな心で受け入れもしなければ、冠を贈りもしないのだから。

第251行

短い音節に長い音節を続けたものは、短長格と呼ばれる、

第252行

敏速な歩格だ。そこから、短長格の詩行には、三歩格という

第253行

名が付け加わることになった。六つの拍を刻みながらも、

第254行

最初から最後まで同じ姿だったからだ。ところが、そう昔ではないころ、

第255行

いくらかゆっくりと、重々しく耳へ届くようにと、

第256行

短長格は、どっしりした長長格を、父祖伝来の権利の座に迎え入れた、

第257行

気前よく、辛抱づよく。ただし盟約により、第二の席と、

第258行

第四の席からは譲らなかった。この純粋な短長格は、アッキウスの

第259行

名高い三歩格にも、めったに姿を見せない。そしてエンニウスが、

第260行

大いなる重みとともに舞台へ送り出した詩行には、のしかかる、

第261行

仕事を急ぎすぎて手入れを欠いたか、

第262行

それとも技を知らなかったか、その恥ずべき咎めが。

第263行

調べの狂った詩に気づく目利きが、誰にでも務まるわけではなく、

第264行

ローマの詩人たちには、分に過ぎた大目こぼしが与えられてきた。

第265行

だからといって、私は気ままに書き散らしてよいのか。それとも、

第266行

誰もが私の過ちを見つけると思い定め、赦しの望みの内側で、

第267行

用心して身を守るべきか。それではせいぜい、咎めを避けただけで、

第268行

讃辞には値しない。君たちは、ギリシアの手本を、

第269行

夜も手のうちに繰り、昼も繰るがいい。

第270行

なるほど、私たちの曾祖父たちは、プラウトゥスの韻律も

第271行

洒落も讃えた。どちらにも、寛大にすぎる――

第272行

愚かとは言うまいが――そんな感嘆ぶりだった。もっとも、私と君たちに、

第273行

野暮な言葉と気の利いた言葉を選り分ける心得があり、

第274行

正しい調べを、指でも耳でも聞き分けられるなら、の話だが。

第275行

悲劇のカメナという、それまで知られなかった類を見いだしたのは、

第276行

テスピスだと言われる。荷車で運んだその詩を、

第277行

酒粕を顔に塗りたくった者たちが歌い、演じた。

第278行

彼のあとに、仮面と品位ある長衣の考案者

第279行

アイスキュロスが現れ、ほどよい角材で舞台を張り、

第280行

大きく語ることと、悲劇の厚底靴で立つことを教えた。

第281行

これらに続いたのが古い喜劇で、少なからぬ

第282行

讃辞を得た。だが、その自由は悪弊へ堕ち、法で御されるべき

第283行

乱暴となった。法が受け入れられると、合唱隊は、

第284行

人を傷つける権利を奪われ、みじめに黙り込んだ。

第285行

私たちの詩人が、試みずに残したものは何もない。

第286行

決して小さくない誉れに値したのは、ギリシアの足跡を

第287行

あえて捨て、この国の出来事を讃えた者たち、

第288行

ローマの悲劇を、またローマの喜劇を、舞台に掛けた者たちだ。

第289行

武勇や輝かしい武器によって、より強くなっていたはずもない、

第290行

ラティウムが、言葉によって。もし詩人のひとりひとりが、

第291行

やすりの労と、それにかかる時間を嫌がりさえしなければ。君たちよ、

第292行

おおポンピリウスの血筋よ、責めるがいい、

第293行

長い日数と、幾度もの抹消に引き締められておらず、

第294行

爪の先まで十度削って正されてもいない詩を。

何度も消して削った跡の残る蠟板に、使い込まれたやすりが横たわる。
十度削る

第295行

天賦は、みじめな技よりも恵まれている――そう

第296行

信じ、正気の詩人をヘリコンから

第297行

デモクリトスが。締め出して以来、詩人のかなりの部分は、爪を切ろうともせず、

第298行

ひげも剃らず、人けのない場所を求め、浴場を避ける。

第299行

それで詩人の値打ちと名が手に入る、というわけだ、

第300行

三つのアンティキュラでも治せないその頭を、

第301行

床屋のリキヌスに決して任せさえしなければ。ああ、私は間の悪い男だ、

第302行

春先が巡り来るたび、胆汁を下しているとは。

第303行

さもなければ、私にまさる詩を作る者はいないだろうに。だが、

第304行

それほどの値打ちのあることでもない。だから私は、砥石の役を務めよう。

第305行

自分では切れないのに、鉄を鋭くすることのできる、あの砥石の役を。

第306行

自分では何も書かず、書く者の任務と務めを教えよう。

第307行

元手をどこから調えるか。何が詩人を養い、形づくるか。

第308行

何がふさわしく、何がそうでないか。美質はどこへ、過ちはどこへ導くかを。

第309行

正しく書くことの始まりであり、泉であるのは、良識だ。

第310行

題材なら、ソクラテスの徒の書物が示してくれるだろう。

第311行

題材がよく見えてさえいれば、言葉は、いやいやながらでなく、あとに従う。

第312行

学んだ者は――祖国に何を負い、友に何を負うか、

第313行

親を、兄弟を、客人を、どんな愛で愛すべきか、

第314行

元老院議員の務めとは何か、判事の務めとは何か、

第315行

戦場へ送られた将の役割とは何かを学んだ者は――まちがいなく、

第316行

それぞれの人物に、ふさわしいものを与えるすべを知っている。

第317行

私は命じよう、学識ある模倣者に、人生と人柄という手本を

第318行

見つめ、そこから生きた声を汲み取れと。

第319行

ときには、見せ場が立派で、人柄の描き方が正しい劇は、

第320行

艶がなく、重みも技もなくとも、

第321行

民衆をより強く楽しませ、より確かに引き留める、

第322行

中身の乏しい詩行や、調べばかりよい戯れ言よりも。

第323行

ギリシア人には天賦を、ギリシア人にはまろやかな口ぶりで

第324行

語ることを、ムーサは与えた。彼らは、讃辞のほかには何も貪らなかった。

第325行

ローマの子どもたちは、長い計算をして、一アスを

第326行

百の部分に割ることを学ぶ。「答えてみよ、

第327行

アルビヌスの息子。五ウンキアから、一ウンキアを

第328行

引いたら、残りはいくらだ。もう言えたはずだぞ」「三分の一アス」「よし、

第329行

おまえは身代を守れるぞ。一ウンキア戻せば、どうなる」

第330行

「二分の一アス」。この銅錆と、蓄えへの気がかりが、いったん心に

第331行

染みついたなら、それでも望めるだろうか、

第332行

杉の油を塗られ、磨かれた糸杉の箱に収められるほどの詩が生まれると。

第333行

詩人の望みは、役に立つことか、楽しませることか、

第334行

あるいは、快いことと人生の役に立つことを、同時に語ることだ。

第335行

教えを説くなら、何であれ簡潔にせよ。素直な心が、言われたことを

第336行

すばやく受け取り、忠実に保てるように。

第337行

いっぱいに満ちた胸からは、余計なものはみな、こぼれ落ちる。

第338行

楽しませるための作りごとは、真実のすぐ近くに置け。

第339行

劇が、望むままに何でも信じてくれと迫ってはならない。

第340行

昼餉を終えたラミアの腹から、生きた子どもを引き出して見せてもならない。

第341行

長老たちの百人組は、実りのないものをやかましく責め、

第342行

誇り高いラムネスの騎士たちは、渋すぎる詩を素通りする。

第343行

すべての票をさらうのは、有益を甘美に混ぜ合わせ、

第344行

読者を楽しませながら、同時に教え諭す者だ。

第345行

その本はソシウス兄弟に金を稼がせ、海を渡り、

第346行

名を得た書き手の命脈を、長く延ばす。

第347行

それでも、許してやりたくなる過ちはある。

第348行

弦は、手と心が望む音を、いつも返すわけではなく、

第349行

低い音を求めても、しばしば高い音をよこすし、

第350行

弓も、狙いをつけたものにいつも当たるとはかぎらない。

第351行

だが、詩の大部分が輝いているなら、私はわずかな

第352行

染みには腹を立てない。不注意がこぼしたか、

第353行

人の性が防ぎきれなかった染みには。では、どうなるのか。

第354行

注意されてもなお、同じ間違いを繰り返す筆写人に、

第355行

容赦がないように、また、いつも同じ弦で

第356行

つまずく竪琴弾きが笑われるように、

第357行

怠りの多い詩人は、私にとって、あのコエリルスになる。

第358行

二、三箇所良ければ、笑いながら感心してやる男だ。その同じ私が、

第359行

善良なホメロスが居眠りするたびには、憤慨もする。

第360行

もっとも、長い仕事には、眠りが忍び寄るのも道理だ。

第361行

詩は、絵のようなものだ。近くに立つほど

第362行

心をつかむものもあれば、離れて立つほどよいものもある。

第363行

こちらは薄暗がりを好み、あちらは光の下で見られたがる、

第364行

目利きの鋭い眼識を恐れないものだ。

第365行

一度だけ気に入られるものもあれば、十度繰り返されてなお気に入られるものもある。

第366行

若者たちの兄なる君よ。父の声によって

第367行

正しい道へ形づくられ、自分でも分別を持つ君だが、この言葉は、

第368行

胸に刻んで持ち帰ってほしい。ある種の仕事では、中くらいで、まずまずの出来も、

第369行

正当に認められる。法律の相談役や、

第370行

中くらいの弁護人は、力量では、雄弁な

第371行

メッサラに遠く及ばず、カスケリウス・アウルスほどの知識もない。

第372行

それでも重宝がられる。だが、詩人が中くらいであることは、

第373行

人も、神々も、書店の柱も、許したためしがない。

第374行

心楽しい宴のさなか、調子はずれの合奏や、

第375行

どろりとした香油や、サルディニアの蜜をかけた芥子の実が

第376行

不興を買うのは、それらなしでも食事は運んだはずだからだ。

第377行

同じように、心を喜ばせるために生まれ、見いだされた詩は、

第378行

頂からわずかに下がっただけで、どん底へ傾く。

第379行

競技を知らない者は、練兵場の武具に手を出さないし、

第380行

球も円盤も輪回しも心得ない者は、おとなしくしている、

第381行

びっしり取り巻いた見物人に、遠慮会釈なく笑われないように。

第382行

それなのに、詩を知らない者が、あえて詩を作る。なぜ悪い、というわけだ。

第383行

自由の身で、生まれもよく、なにより騎士の資産額で

第384行

登録されていて、どんな悪徳とも無縁なのだから。

第385行

君は、ミネルウァの意に背いては、何も言わず、何もしないだろう。

第386行

それだけの判断力と、心構えが君にはある。それでも、いつか何かを

第387行

書いたなら、目利きのマエキウスの耳に、

第388行

父上の耳に、私の耳に、それを届けよ。そして九年目まで抑えておけ、

第389行

草稿は家の内にしまい込んで。消すことは、いつでもできる、

第390行

世に出していないかぎりは。放たれた声は、戻り方を知らない。

第391行

森に住む人々を、神々の聖なる代弁者は、

第392行

殺し合いと忌まわしい食い物から遠ざけた、オルフェウスは。

第393行

それゆえに、虎を、猛り狂う獅子を手なずけた、と言われた。

第394行

テーバイの町を建てたアンフィオンもまた、

第395行

竪琴の音と、甘い祈りの言葉で岩を動かし、

第396行

望むところへ導いた、と言われた。かつては、これが知恵だった。

第397行

公のものを私のものから、聖なるものを俗なるものから分かち、

第398行

みだりな交わりを禁じ、夫婦のさだめを与え、

第399行

町々を築き、法を木の板に刻むことが。

第400行

こうして、誉れと名声が、神さながらの詩人たちと、

第401行

その歌に訪れた。彼らのあとには、傑出したホメロスと

第402行

テュルタイオスが、雄々しい心を、軍神の戦へと

第403行

詩行で研ぎ立てた。託宣は歌に載せて告げられ、

第404行

生きる道が示され、王たちの寵愛が

第405行

ピエリアの調べで試みられ、祝いの遊びが見いだされた、

第406行

長い労働の締めくくりとして。だから、恥じることはない、

第407行

竪琴に巧みなムーサも、歌い手アポロも。

第408行

讃えられる詩を生むのは生まれつきか、それとも技かと、

第409行

問われてきた。私には、豊かな鉱脈なしの勤勉が、

第410行

また磨かれぬままの天賦が、何の役に立つのか分からない。それほどに、

第411行

一方は他方の助けを求め、仲むつまじく手を結んでいる。

豊かな鉱脈の前で、震える弟子の手を師が支え、鑿の使い方を教える。
天賦と技

第412行

走って、念願の決勝標に触れようと励む者は、

第413行

少年のころから多くを耐え、多くをこなし、汗をかき、凍え、

第414行

色事と酒を断ってきた。ピュティアの祭で笛を

第415行

吹き鳴らす者は、まず学び、師に震えあがった。

第416行

ところが今では、こう言えば足りる。「私は目覚ましい詩を作る。

第417行

最後の者は疥癬に食われるがいい。取り残されるのは俺の恥、

第418行

そして、習いもしなかったことを、正直に知らないと認めるのも恥だ」。

第419行

売り物のまわりへ、買い手の群れを駆り集める呼び売りのように、

第420行

詩人は、おべっか使いどもに、儲けへ来いと号令をかける、

第421行

田畑に富み、利息に回した金に富む詩人は。

第422行

だが、もしその男が、脂ののった膳をきちんと据えることができ、

第423行

あてにならない貧乏人の保証に立ち、苦しい訴訟に

第424行

絡め取られた者を救い出せる身なら、私は驚くだろう、その果報者が、

第425行

嘘の友とまことの友を、見分けられたとしたら。

第426行

君も、誰かに贈り物をしたなら、あるいは、しようと思っているなら、

第427行

喜びに満ちたその相手を、作ったばかりの自分の詩の前へ

第428行

連れて行くな。彼は叫ぶに決まっている、「美しい、うまい、申し分ない」と。

第429行

顔を青ざめさせ、そのうえ、友情のこもった目から

第430行

露をしたたらせ、跳びはね、足で地を打つだろう。

第431行

葬式で雇われて泣く者たちが、心から悲しむ者より、

第432行

多くを語り、多くをして見せるのに、ほとんど等しい。そのように、

第433行

あざける者は、本心から讃える者よりも、動かされたふりが大きい。

第434行

王たちは、杯を重ねて人を責め立て、

第435行

生一本の酒で責め抜くと言われる、見きわめたいと苦心する相手が、

第436行

友情に値するかどうかを。君も、詩を作るのなら、

第437行

狐の皮の下に隠れた心に、決して欺かれるな。

第438行

クインティリウスに何かを朗読して聞かせれば、「頼むから、ここを

第439行

直したまえ、それからここも」と彼は言った。これ以上うまくはできない、

第440行

二度三度試みたが無駄だった、と君が答えれば、彼は命じた、消して、

第441行

削りの甘い詩行を、鉄床へ戻せと。

第442行

もし君が、過ちを改めるより、かばうほうを選べば、

第443行

彼はもう一言も費やさず、無駄な骨折りもしなかった。

第444行

恋敵なしで、自分ひとり、わが身とわが作を愛でていろ、というわけだ。

第445行

善良で分別のある人は、気の抜けた詩行を責め、

第446行

ごつごつした詩行を咎め、手入れのないものには、葦筆を横に走らせて

第447行

黒い印をなすりつけ、思わせぶりな飾りを

第448行

切り落とし、明るさの足りない箇所には光を入れさせ、

第449行

曖昧な言い回しを問いただし、直すべき箇所に印をつける。

第450行

アリスタルコスになるのだ。「なぜ友の機嫌を、

第451行

こんな些事で損なうのか」とは言わない。その些事が、深刻な災いへと導く、

第452行

ひとたび物笑いになり、意地の悪い迎え方をされた者を。

第453行

たちの悪い疥癬や、黄疸や、

第454行

神がかりの狂乱や、怒れるディアナに取り憑かれた者を避けるように、

第455行

分別ある人々は、狂った詩人に触れるのを恐れて逃げ、

第456行

子どもたちは囃し立て、迂闊な連中があとを追う。

第457行

この男が、空を仰いで詩行をげっぷさながらに吐き、ほっつき歩くうち、

第458行

クロウタドリに気を取られた鳥刺しよろしく、

第459行

井戸か落とし穴へはまり込んだなら、「助けてくれ、

第460行

おおい、皆の衆」と長々叫んでも、引き上げてやろうという者はいまい。

第461行

もし誰かが手を貸す気になって、綱を下ろそうとしたら、

第462行

「わかるものか、わざと身を投げたのであって、

第463行

助かる気などないのかもしれないぞ」と私は言い、シチリアの詩人の

第464行

最期を語って聞かせよう。「不死の神と見なされたい、

第465行

その望みのあまり、エンペドクレスは、冷静に、燃えるアエトナへ

第466行

跳び込んだ。詩人には、滅びる権利と自由を認めてやるがいい。

第467行

いやがる者を救うのは、殺すのと同じことだ。

第468行

こんな真似は一度きりではないし、引き上げられたところで、いまさら

第469行

人間に戻って、名高い死への恋を捨てたりはしない。

第470行

だいたい、なぜ詩を作りつづけるのかも、はっきりしない。

第471行

父祖の遺灰に小便をかけたのか、それとも、雷の落ちた忌み地を

第472行

穢れた身で動かしたのか。確かなのは、狂っていることだ。檻に

第473行

立てられた格子をへし折った熊さながら、

第474行

この容赦ない朗読者は、無学な者も学のある者も追い散らす。

第475行

そして、ひとたび捕まえた相手は放さず、読み聞かせて仕留める、

朗読者が逃げようとする聞き手の腕をつかみ続け、足元に小さな蛭がいる。
逃れられない朗読

第476行

血をたっぷり吸うまでは肌を放さない、蛭のように」。

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