...
プイス現代日本語訳

この本の概要

プイス

現代日本語訳

ダイフェズの君主プイスは、狩りで他界アンヌンの王アラウンと出会う。姿を替えて一年を過ごし、敵を一撃で倒して誠実を守った。塚の上で金色の衣のリアンノンと出会い、約束の罠を袋で解き、失われた息子プリデリを取り戻す。信頼と役割交換、約束の重さを語るウェールズ最古層の物語。

『プイス』の表紙
『プイス』の表紙

この本の概要

プイス

現代日本語訳

ダイフェズの君主プイスは、狩りで他界アンヌンの王アラウンと出会う。姿を替えて一年を過ごし、敵を一撃で倒して誠実を守った。塚の上で金色の衣のリアンノンと出会い、約束の罠を袋で解き、失われた息子プリデリを取り戻す。信頼と役割交換、約束の重さを語るウェールズ最古層の物語。

0106

狩猟とアラウン

狩猟とアラウン(1)

ここにマビノギが始まる。

ダイフェズの君主プイスは、ダイフェズの七つのカントレヴを治めていた。あるとき、主な宮廷であるアルベルスにいた彼は、狩りに出ようと思い立った。狩り場に選んだのは、自領のグリン・クーフだった。その夜アルベルスを発ち、スウィン・ディアルイズの外れまで来て、そこで夜を過ごした。翌朝、夜が明けたばかりのころに起き、グリン・クーフへ行って森に猟犬を放った。角笛を吹いて狩りを始め、犬たちを追って進むうちに、連れの者とはぐれた。犬の声に耳を澄ましていると、別の犬たちの声が聞こえた。

狩猟とアラウン(2)

森の広場で、耳だけが赤い真っ白な他界の猟犬が鹿を倒し、土色のプイスの犬が獲物から追い払われようとしている
白い猟犬

その声は自分の犬たちとは違い、向こうから近づいてきた。森の中には、平らな野のように開けた場所があった。プイスの犬がその端へ差しかかると、別の犬たちの前を鹿が走っていた。やがて広場の中ほどで、追っていた犬たちが鹿に追いつき、地面へ倒した。プイスは鹿には目もくれず、犬たちの毛色を見た。これまで世界中で見たどの猟犬とも違っていた。毛はまばゆいほど白く輝き、耳は赤かった。体の白さが光るのと同じく、耳の赤さも鮮やかに光っていた。プイスは犬たちのもとへ行き、鹿を仕留めた犬を追い払い、自分の犬を鹿にけしかけた。

狩猟とアラウン(3)

自分の犬をけしかけていると、犬たちのあとから一人の騎手がやって来るのが見えた。大きな青みがかった灰色の馬に乗り、首には角笛を掛け、灰色の毛織物の狩り装束をまとっていた。騎手は近づくと、こう言った。

「やあ、君主よ。あなたが誰かは知っている。だが、挨拶する気にはなれない」

「そうか」とプイスは言った。「挨拶するには、あなたの身分が高すぎるのかもしれないな」

「いや、それをためらわせているのは、私の身分ではない」

「では何だ、君主よ」

「あなた自身の無知と礼儀知らずだ」

「私のどこが礼儀知らずに見えた?」

「鹿を捕らえた犬たちを追い払い、自分の犬をけしかけるほど無礼な男を、私は見たことがない。これは明らかな無礼だ。あなたに報復はしないが、鹿百頭の値打ちを超える恥をかかせてやる」

「君主よ、私が悪かったのなら、償って許しを得よう」

狩猟とアラウン(4)

「どう償うつもりだ?」

「あなたの身分にふさわしい形で。だが私は、あなたが誰なのか知らない」

「私は、生まれた国で王冠を戴く王だ」

「ご機嫌よう、王よ。どの国から来た?」

「アンヌンからだ。私はアンヌンの王アラウンだ」

「王よ、どうすれば許しを得られる?」

「こうすれば得られる。私の領地と境を接する国に、絶えず私へ戦を挑む男がいる。アンヌンの王ハヴガンだ。あの男の圧迫を取り除いてくれればいい。あなたならたやすくできる。それで私は許そう」

「喜んで引き受ける。どうすればよいか教えてくれ」

「教えよう。あなたと固い盟友になるため、こうする。あなたを私の代わりにアンヌンへ送り、姿も顔立ちも私と同じに変える。寝室の小姓も、役人も、これまで私に仕えてきた誰一人として、あなたが私でないとは気づかない。明日から一年後、ここで再会するまでそうしていよう」

「だが、一年そこにいたとして、話に出た男とはどう会えばよい?」

「今夜から一年後、あの男と私は浅瀬で会う約束になっている」

狩猟とアラウン(5)

「そこへ私の姿で行け。一撃を加えれば、あの男は生き延びられない。もう一度打ってくれと頼まれても、どれほど懇願されようと応じるな。私が二撃目を加えたときは、翌日になると、それまでと変わらぬ力でまた戦いを挑んできた」

「わかった」とプイスは言った。「だが、私自身の国はどうすればよい?」

「あなたの領内では、男も女も、私があなたでないとは気づかないようにしよう」とアラウンは言った。

「では喜んであなたの代わりに行こう。先へ進む」

「行く手は開け、私の国に着くまで何ものにも阻まれない。私がそこまで案内しよう」

アラウンはプイスを案内し、宮廷とその館が見えるところまで連れていった。

狩猟とアラウン(6)

「あれが、あなたに任せる宮廷と領地だ。宮廷へ行け。そこにいる者はみな、あなたを知っている。そこでどのようにもてなされるかを見れば、宮廷のしきたりもわかるだろう」

プイスは宮廷へ向かった。そこには寝所や広間や部屋が並び、誰も見たことがないほど美しい建物が立っていた。

0206

アンヌンの一年

アンヌンの一年(1)

プイスが着替えのため広間へ入ると、若者や小姓たちが来て服を脱がせた。入ってくる者はみな、次々に挨拶した。二人の騎士が狩り装束を脱がせ、金糸を織り込んだ絹の衣を着せた。広間が整えられると、家臣と従者たちが入ってきた。これほど姿がよく、立派に装った一団を見た者はいなかった。その中には王妃もいた。誰も見たことがないほど美しい女性で、光沢のある絹の金色の衣をまとっていた。一同は手を洗って食卓についた。王妃がプイスの片側に座り、反対側には伯爵と思われる男が座った。

アンヌンの一年(2)

プイスは王妃と話し始めた。これまで言葉を交わしたどの女性よりも、彼女は優しく、気品ある生まれと話しぶりを備えていた。一同は食事と酒、歌と語らいを楽しんだ。プイスが見てきた地上のどの宮廷よりも、ここには食べ物と酒、黄金の器と王家の宝が満ちていた。

やがて眠る時が来ると、プイスは王妃とともに寝所へ行った。二人で床に入ると、彼は顔を床の端へ向け、王妃には背を向けた。そのまま翌朝まで、一言も話しかけなかった。翌朝になると、二人の間には穏やかで親しい語らいがあった。昼間にどれほど親しみを交わしても、一年が終わるまで、どの夜も最初の夜と変わらなかった。

アンヌンの一年(3)

プイスは狩りや歌、宴や親しい交わり、仲間との語らいに日々を過ごし、決闘の夜まで一年を送った。その夜が来ると、国の最果てにいる者まで、決められた対面のことを覚えていた。プイスは国の貴人たちを連れて約束の場所へ行った。浅瀬に着くと、一人の騎士が立ち上がって言った。

「皆の者、よく聞け。この決闘は二人の王の間で行われる。二人が、自らの体だけで決するものだ」

アンヌンの一年(4)

浅瀬の中央でアラウンの姿のプイスが一撃を加え、ハヴガンが馬から落ち、両岸に貴人たちが離れて立っている
浅瀬の一撃

「両者は領地をめぐり、互いに権利を主張している。皆は安心してよい。ただ二人に戦わせよ」

二人の王は浅瀬の中央へ進み、向かい合った。最初の打ち合いで、アラウンの代わりに立つ男はハヴガンの盾の中央を打った。盾は真二つに割れ、防具も砕け、ハヴガンは馬の尻を越えて、腕と槍を伸ばしたほど先の地面へ投げ出された。その身には致命の傷を負っていた。

「君主よ」とハヴガンは言った。「私を死なせるどんな権利があなたにある? 私は何も求めてはいなかったし、なぜあなたが私を殺そうとするのかも知らない。だが、殺し始めたのなら、最後までやれ」

「君主よ」とプイスは答えた。「あなたにしたことを、私は後悔するかもしれない。ほかの誰かが殺すならともかく、私は殺さない」

「忠実な家臣たちよ」とハヴガンは言った。「私をここから運び出せ」

アンヌンの一年(5)

「もう私の死は決まった。これ以上、おまえたちを支えることはできない」

「では、わが貴人たちよ」とアラウンの代わりに立つ男は言った。「よく相談し、誰が私の臣下となるべきか見定めよ」

「王よ、すべての者がそうなるべきです。今やアンヌン全土に、あなた以外の王はいません」

「そうだ。従って来る者は、しかるべく受け入れよう。従わぬ者は、剣の力で従わせよ」

こうしてプイスは人々の服従を受け入れ、国の征服に取りかかった。翌日の正午までには、二つの王国をともに手中に収めていた。

アンヌンの一年(6)

それからプイスは帰るべき地へ向かい、グリン・クーフに着いた。そこではアンヌンの王アラウンが、彼を迎えに出ていた。

アンヌンの一年(7)

二人は再会を喜んだ。

「あなたの誠実な働きに、神が報いてくださるように」とアラウンは言った。「話は聞いた」

「自分の国へ帰れば、私があなたのために何をしたかわかるだろう」とプイスは言った。

「私のためにしてくれたことに、神が報いてくださるように」

アラウンはダイフェズの君主プイスを本来の姿と顔立ちに戻し、自分も本来の姿と顔立ちに戻った。そしてアンヌンの宮廷へ向かった。長らく会っていなかった家臣や兵たちとの再会は楽しかった。一方、彼らは王がいなかったことに気づいておらず、このたびの帰還をいつもと違うこととも思わなかった。

アンヌンの一年(8)

その日は喜びと楽しみのうちに過ぎた。アラウンは妻や貴人たちと座り、言葉を交わした。

宴を続けるより眠るべき時になると、一同は休んだ。王が床へ入ると、妃もそばへ来た。王はまず妃に話しかけ、愛情のこもった戯れを求めた。そんなことはこの一年なかったので、妃は思った。

「神よ、今夜のこの人の心は、一年前から今夜までとはなんと違うのでしょう」

妃が長く考え込んでいるうちに、王はいったん眠り、やがて目を覚ました。そして二度、三度と話しかけたが、返事はなかった。

「なぜ私に何も言わない?」

「お話しします。この一年、こういう場所で、今夜ほど言葉を交わしたことはありませんでした」

「なぜだ?」

「私たちは、あまりにも言葉を交わさずにきました。一年前の昨夜から、床に入るたび、戯れも語らいもなく、あなたは私のほうへ顔を向けさえしませんでした。まして、それ以上のことは何一つありませんでした。私は恥ずかしく思っています」

王はそこで考えた。

「主なる神よ。私はなんと堅く、偽りのない、忠実な友を得たのだ」

それから妃に言った。

「王妃よ、私を責めないでくれ。神に誓って言うが、私も一年前の昨夜から、あなたとともに眠ったことも、寄り添ったこともない」

そして一部始終を妃に話した。

「神に誓って申し上げます。あなたは、戦いにおいても、体の試練においても、あなたへの誠実を守ることにおいても、実に堅い友を得ました」と妃は答えた。

一方、ダイフェズの君主プイスも、自分の国と領地へ帰った。そして国の貴人たちに、この一年の統治は以前と比べてどうだったかと尋ねた。

「王よ、あなたがこれほど賢明だったことはありません。これほど親しみ深く、惜しみなく贈り物をくださったこともなく、国をこれほど立派に治められた年もありません」

「そうか。よいことがあって感謝するのなら、この一年おまえたちとともにいた男に感謝してくれ。実はこういうことだった」

プイスはすべてを彼らに語った。

アンヌンの一年(9)

「王よ、そのような友情を得られたことを神に感謝なさいませ。そして、私たちがこの一年受けてきた統治を、どうか取り上げないでください」

「私にできるかぎり、決して取り上げない」とプイスは答えた。

それ以後、二人の王は互いの友情をいっそう固め、それぞれ相手が喜ぶと思う馬や猟犬や鷹、そのほかあらゆる宝を贈り合った。

0306

アルベルスの塚

アルベルスの塚(1)

ゴルセズ・アルベルスの塚の上に小さな人影があり、白い馬に乗る金色の衣の女性が歩みを変えずに道を行く
塚の上の女性

プイスはその一年をアンヌンで過ごし、みごとに国を治め、武勇をもって一日のうちに二つの王国を一つにした。そのため、もはやダイフェズの君主プイスとは呼ばれず、それからはアンヌンの首領プイスと呼ばれるようになった。

あるときプイスは、主な宮廷であるアルベルスにいた。宴が用意され、大勢の者が集まっていた。最初の食事が済むと、プイスは散歩に出て、宮廷の上にある塚の頂へ行った。その塚はゴルセズ・アルベルスと呼ばれていた。

アルベルスの塚(2)

「王よ」と宮廷の一人が言った。「この塚には不思議な性質があります。ここに座った君主は誰であれ、傷を負うか、不思議なものを見るか、そのどちらかなしには立ち去れません」

「これほど大勢の中にいて、傷を負うのは恐ろしくない。不思議なものなら、ぜひ見てみたい。塚に座ろう」

プイスが塚に座り、一同もそこにいると、一人の女性が大きく気高い白馬に乗って現れた。輝く金色の衣をまとい、塚から延びる街道をこちらへ進んでくる。馬は、見る者にはゆっくりと一定の足取りで、塚へ近づいてくるように見えた。

「皆の者、あそこにいる騎手を知る者はいるか」とプイスは尋ねた。

「おりません、王よ」

アルベルスの塚(3)

「では一人、迎えに行って何者か確かめてこい」

一人が立ち上がり、街道へ出て彼女を迎えようとした。だが彼が着くころには、彼女はすでに通り過ぎていた。男は走って、できるかぎり速く追った。ところが急げば急ぐほど、彼女との距離は開いた。追っても無駄だとわかると、プイスのもとへ戻った。

「王よ、歩いている者では、世界の誰にも彼女を追えません」

「そうか。宮廷へ行き、見つけられるいちばん速い馬に乗って追え」

男は馬に乗って進み、平らな野へ出た。拍車を当てたが、馬をせき立てれば立てるほど、彼女との距離は開いた。それでも彼女の足取りは初めと変わらなかった。やがて馬が疲れた。馬の足が鈍ったのを見ると、男はプイスのいる場所へ戻った。

アルベルスの塚(4)

「王よ、あの女性を追うことはできません。この国に、これより速い馬がいるとは思えません。それでも追いつけませんでした」

「何か特別な魔法が働いているらしい。宮廷へ戻ろう」

一同は宮廷へ戻り、その日を過ごした。翌日も起きてから食事の時刻まで過ごし、最初の食事を終えると、プイスは言った。

「昨日と同じ顔ぶれで、また塚の頂へ行こう。おまえは、野にいる馬でいちばん速いと知っているものを連れてこい」

若者はそのとおりにした。一同は馬を連れて塚へ行った。座っていると、昨日と同じ女性が、同じ馬に乗り、同じ衣をまとい、同じ道を進んでくるのが見えた。

「昨日の女性だ」とプイスは言った。「若者よ、何者か確かめる用意をしろ」

「喜んで、王よ」

やがて彼女が一同の正面まで来た。

アルベルスの塚(5)

若者は馬に乗った。だが鞍に座りきらないうちに、その女性はすでに通り過ぎ、二人の間にはかなりの距離が開いていた。それでも彼女の進む速さは、前の日と少しも変わらなかった。

アルベルスの塚(6)

若者は馬を速歩にした。これほどゆっくり進む馬でも追いつけると思ったが、うまくいかなかった。手綱を緩めて走らせても、歩いていたときより近づけなかった。馬を激しくせき立てるほど、彼女は遠ざかっていくのに、彼女の馬の足取りは少しも速くならない。追っても無駄だとわかると、若者はプイスのいる場所へ戻った。

「王よ、この馬にできることは、ご覧になったとおりです」

「誰が追っても無駄だということはわかった」とプイスは言った。「だが、きっと彼女はこの辺りの誰かに用があるのだろう。あれほど急いでいなければ、用件を話せるはずなのだが。宮廷へ帰ろう」

一同は宮廷へ戻り、落ち着くまで歌と宴でその夜を過ごした。翌日も食事の時刻まで一日を楽しみ、食べ終えるとプイスは言った。

「昨日と一昨日、私と一緒に塚の頂へ行った者たちはどこにいる?」

「ここにおります、王よ」

アルベルスの塚(7)

「では塚へ行って座ろう。馬番よ、私の馬にしっかり鞍を置き、道まで引いてこい。拍車も持ってくるのだ」

馬番はそのとおりにした。一同が塚へ行って座ると、ほどなくして、あの女性が同じ道を、同じ姿、同じ足取りでやって来た。

「若者よ、彼女が来た。馬をよこせ」

プイスが馬に乗るやいなや、彼女はその前を通り過ぎた。彼は馬を返してあとを追い、元気な馬を軽やかに走らせた。二歩か三歩のうちに追いつくだろうと思ったが、初めより少しも近づけなかった。馬を力のかぎり走らせても、追跡が無駄なのは明らかだった。そこでプイスは叫んだ。

「娘よ、あなたがいちばん愛する人にかけて、私を待ってくれ」

「喜んで待ちましょう。もっと早く頼んでくれれば、あなたの馬にもよかったでしょうに」

娘は立ち止まって待ち、顔を覆っていた頭布を上げた。そしてプイスを見つめ、話し始めた。

アルベルスの塚(8)

「あなたはどの国から来て、どこへ向かっている?」とプイスは尋ねた。

「自分の用を果たしに行くところです。あなたに会えてうれしく思います」

「歓迎しよう」

彼女の姿に比べれば、これまで見たどんな娘や女性の美しさも色あせると、プイスは思った。

「用件を聞かせてくれないか」

「ええ。いちばんの目的は、あなたに会うことでした」

「それは、私にとって何よりうれしい用件だ。あなたが誰かも教えてくれるか」

「お話しします、王よ。私はヘヴェイズ・ヘンの娘リアンノンです。人々は、私の望まない相手に嫁がせようとしています。けれど私は、あなたを愛しているので、どの男も選びませんでした。あなたが拒まないかぎり、これからも誰も選びません」

0406

グワウルと袋

グワウルと袋(1)

「その答えを聞くために、ここへ来たのです」

「ならば答えよう」とプイスは言った。「世界中の女性と娘の中から選べるとしても、私はあなたを選ぶ」

「そう望むのなら、ほかの男に嫁がされる前に、私と会う約束をしてください」

「早ければ早いほどうれしい。場所はあなたの望むところでいい。決めてくれ」

「そうしましょう、王よ」

グワウルと袋(2)

「今夜から一年後、ヘヴェイズ・ヘンの宮廷で、あなたが着くころまでに宴を用意させておきます」

「喜んでその約束を守ろう」とプイスは言った。

「王よ、お元気で。約束を果たすことを忘れないでください。私はもう行きます」

二人は別れ、プイスは家臣や仲間のもとへ戻った。娘のことを何と尋ねられても、彼は別の話にそらした。

約束の日まで一年を過ごすと、プイスは騎士たちを整え、自分を入れて百人でヘヴェイズ・ヘンの宮廷へ向かった。宮廷では喜んで迎えられ、大勢が集まり、歓喜と盛大な支度が彼を待っていた。宮廷の役人はみな、彼の意向に従って配置された。広間が整えられ、一同は食卓についた。プイスの片側にはヘヴェイズ・ヘン、反対側にはリアンノンが座り、ほかの者もそれぞれ身分に応じた席についた。

グワウルと袋(3)

一同は食べ、飲み、語り合った。食事のあとの酒宴が始まったころ、背が高く、赤褐色の髪をした若者が入ってきた。王者らしい風格があり、絹の衣をまとっていた。広間の入口まで来ると、プイスとその仲間たちに挨拶した。

「天の恵みがありますように。さあ、座ってくれ」とプイスは言った。

「いいえ。私は願いを申しに来ました。用件を果たします」

「喜んで聞こう」

「王よ、用件はあなたにあります。一つお願いをするために来ました」

「何を望もうと、私にできることなら与えよう」

「ああ、なぜそんな答えをしたのです」とリアンノンが言った。

「皆の前で、もうそう答えたではありませんか」と若者は言った。

「それで、望みは何だ?」とプイスが尋ねた。

「私が誰より愛する女性はリアンノンです。彼女と、ここに用意された食事と宴をいただきに参りました」

返す言葉がなく、プイスは黙り込んだ。

グワウルと袋(4)

「好きなだけ黙っていればいい」とリアンノンは言った。「自分の知恵を、あなたほど愚かに使った男はいません」

「この男が誰なのか、私は知らなかった」

「私が望まないのに、人々が嫁がせようとした相手です。クルズの息子グワウル。大きな力と富を持つ男です。あなたがあの言葉を口にした以上、恥をかかないためにも私を彼に与えてください」

「何を言っているのかわからない。そんなことは決してできない」

「私を彼に与えてください。それでも私は、決して彼のものにならないようにします」

「どうやって?」

「小さな袋を渡します。大切に持っていてください。彼は食事と宴ともてなしを求めるでしょうが、それらはあなたのものではありません。私がダイフェズの人々と家臣たちに与えます。それが、あなたの答えになります。私は今夜から一年後に彼と結婚する約束をします」

グワウルと袋(5)

「一年後、この袋を持ち、あなたを入れて百人の騎士とともに、上の果樹園にいてください。彼が宴の楽しみのただ中にいるとき、あなただけが粗末な服を着て、袋を手に入ってくるのです。そして、袋いっぱいの食べ物だけを求めてください。この七つのカントレヴにある食べ物と酒をすべて入れても、袋が少しもいっぱいにならないようにしておきます。たくさん入れたあと、彼は『その袋はいつかいっぱいになるのか』と尋ねるでしょう。そうしたら、『土地と領地と富を持つ高貴な方が立ち上がり、袋の中の食べ物を両足で踏み固めて、「これで十分入った」と言わなければ、いっぱいにはならない』と答えてください。私が、彼自身に袋の中身を踏ませます」

グワウルと袋(6)

「彼が袋へ入ったら、頭までかぶるように袋を返し、ひもを結んでください。首にはよく鳴る角笛を掛けておきます。彼を袋に閉じ込めたら角笛を吹き、それを騎士たちへの合図にしてください。音を聞いた騎士たちは、宮廷へ攻め下ります」

「王よ、私の願いへの答えをいただきたい」とグワウルが言った。

「求めたもののうち、私の手にあるものは与えよう」とプイスは答えた。

「愛しい方」とリアンノンはグワウルに言った。「ここにある食事ともてなしは、ダイフェズの人々と、家臣と、ここに集まった一同に与えてあります。これをほかの誰かに渡すことはできません。今夜から一年後、あなたのためにこの宮廷で宴を用意し、私はあなたの妻になります」

グワウルは自分の国へ帰り、プイスもダイフェズへ戻った。ヘヴェイズ・ヘンの宮廷で開かれる宴の時が来るまで、一同はその一年を過ごした。

グワウルと袋(7)

クルズの息子グワウルは、自分のために用意された宴へ向かった。宮廷に着くと、喜んで迎えられた。アンヌンの首領プイスも、リアンノンに言われたとおり、自分を入れて百人の騎士とともに果樹園へ来て、あの袋を携えていた。プイスは重くぼろぼろの服をまとい、足には不格好な古靴を履いた。食事が終わって酒宴が始まったと知ると、広間へ向かった。入口まで来ると、クルズの息子グワウルと、そこにいる男女の一同へ挨拶した。

「神の恵みと歓迎を、あなたに」とグワウルは言った。

「王よ、神が報いてくださいますように。お願いがあって参りました」

「よく来た。道理にかなう願いなら、喜んでかなえよう」

「道理にかなう願いです。困っておりますので、あそこに見える小さな袋いっぱいの食べ物、それだけをいただきたいのです」

「じつにささやかな願いだ。喜んで与えよう」

グワウルと袋(8)

「この男に食べ物を持ってこい」

大勢の者が立ち上がり、袋へ食べ物を入れ始めた。いくら入れても、袋は初めと少しも変わらない。

「おい、その袋はいつかいっぱいになるのか」とグワウルが尋ねた。

「何をどれだけ入れても、いっぱいにはなりません。土地と領地と富を持つ高貴な方が立ち上がり、袋の中の食べ物を両足で踏んで、『これで十分入った』と言わないかぎりは」

「すぐ立ってください」とリアンノンはクルズの息子グワウルに言った。

「喜んで立とう」

グワウルと袋(9)

木造の広間でぼろを脱いだプイスが大きな袋を結び、宴の灯の下で騎士たちが袋を打っている
袋の中のアナグマ

グワウルは立ち上がり、両足を袋へ入れた。プイスは袋を返して、グワウルを頭まですっぽり包み、すばやく口を閉じてひもを結んだ。それから角笛を吹いた。すると騎士たちが宮廷へなだれ込み、グワウルと来た者を残らず捕らえ、牢へ入れた。

プイスはぼろ布と古靴を脱ぎ捨てた。彼の騎士たちは入ってくるたび袋を一打ちし、「中に何がいる?」と尋ねた。

「アナグマだ」

こうして袋を使った遊びが始まった。一人ずつ、足や棒で袋を打つ。新たに入ってきた者は、そのつど尋ねた。

「何という遊びだ?」

「袋の中のアナグマだ」

このとき、「袋の中のアナグマ」という遊びが初めて行われた。

「王よ」と袋の中の男が言った。「どうか話を聞いてくれ。袋に入れられたまま打ち殺されるほどのことはしていない」

「この男の言うとおりだ」とヘヴェイズ・ヘンが言った。「話を聞いてやるべきだ。これほどの仕打ちを受けるには値しない」

「わかった。この男については、あなたの助言に従おう」とプイスは言った。

「では、私から案があります」とリアンノンが言った。

グワウルと袋(10)

「今のあなたは、恩恵を求める者や詩人たちを満足させる立場にあります。あなたに代わって、この男に皆への贈り物を出させてください。そして、今回のことで決して追及も復讐もしないと誓わせるのです。それで罰としては十分です」

「喜んでそうしよう」と袋の中の男は言った。

「ヘヴェイズ・ヘンとリアンノンの助言なら、私も喜んで受け入れよう」とプイスは言った。

「それが私たちの助言です」と二人は答えた。

グワウルと袋(11)

「受け入れよう」とプイスは言った。「保証人を立てろ」

「この男の家臣たちが自由になり、保証人を務められるようになるまでは、私たちが保証しよう」とヘヴェイズ・ヘンは言った。

そこでグワウルは袋から出され、その重臣たちも釈放された。

「ではグワウルに保証人を求めよ」とヘヴェイズ・ヘンは言った。「誰を選ぶべきか、私たちにはわかっている」

ヘヴェイズ・ヘンは保証人を一人ずつ指名した。

グワウルと袋(12)

「契約の文言は、あなたが決めてくれ」とグワウルは言った。

「リアンノンの言ったとおりで、私は満足だ」とプイスは答えた。

「王よ、私はひどい傷を負い、体中が痛みます。薬を塗らなければならないので、許しをいただけるなら帰ります。ここには貴人たちを残し、あなたが求めるすべてに私の代わりに答えさせます」

「そうするといい」とプイスは言った。

グワウルは自分の国へ向かった。広間はプイスの一行と宮廷の者たちのために整えられ、一同は食卓についた。一年前のあの夜と同じ席に、それぞれが座った。皆で食べ、酒を飲み、プイスとリアンノンは結婚した。

翌朝、夜が明けたばかりのころ、リアンノンが言った。

「王よ、起きて詩人たちに贈り物をしてください。今日あなたの厚意を求める者を、一人も断らないで」

「喜んでそうしよう。今日だけでなく、この宴が続く毎日そうする」

プイスは立ち上がり、一同を静かにさせた。そして恩恵を求める者と詩人たちを残らず前へ呼び、欲しい贈り物をそれぞれ申し出るよう告げた。誰もが望むものを受け取れるようにした。

グワウルと袋(13)

そのとおりに行われた。宴が続く間、求めたものを断られる者は一人もいなかった。

0506

誕生と償い

誕生と償い(1)

宴が終わると、プイスはヘヴェイズ・ヘンに言った。

「王よ、お許しを得て、明日はダイフェズへ向かいます」

「よいとも。道中つつがないように。リアンノンがあとから行く時期も決めておきなさい」

「いいえ、ここから二人で一緒に参ります」

「そう望むのか、王よ」

「ええ、そうします」

翌日、二人はダイフェズへ向かい、アルベルスの宮廷に着いた。そこにも宴が用意されていた。国と領地から身分ある男女が大勢、二人に会いに来た。リアンノンはその誰にも、腕輪か指輪か宝石か、立派な贈り物を渡した。

二人はその年も次の年も、国をよく治めた。三年目になると、国の人々は、自分たちの王であり乳兄弟でもある、これほど敬愛する男に跡継ぎがいないことを重く受け止め始めた。そして二人のもとへ集まった。

誕生と償い(2)

人々が集まったのは、ダイフェズのプレセリだった。

「王よ」と彼らは言った。「今の妻との間に、跡継ぎができないのではないかと私たちは恐れています。跡継ぎを生んでくれる別の妻を迎えてください。あなたがいつまでも生きているわけではありません。このままでいたいと望まれても、私たちは受け入れられません」

「まだ二人で暮らし始めてから、そう長くはない。これから何が起こるかもわからない。この話はあと一年待ってくれ。一年後にまた集まり、そのときはおまえたちの助言に従おう」

そう決まった。一年が終わる前に、プイスに男の子が生まれた。生まれたのはアルベルスだった。その夜、母と子を見守るため、女たちが部屋へ入れられた。だが女たちも、子の母リアンノンも眠ってしまった。部屋には六人の女がいた。夜のしばらくの間は見張っていたが、真夜中前には全員が眠り、夜明け近くになって目を覚ました。子を寝かせた場所を見ると、どこにもいなかった。

「ああ、子をなくしてしまった」と一人が言った。

「そうだ。この子をなくした罰に、私たちが焼き殺されても処刑されても軽すぎるほどだ」と別の一人が言った。

「この窮地を逃れる手は、何かないの?」と一人が尋ねた。

誕生と償い(3)

「ある。いい考えを思いついた」と別の一人が答えた。

「どんな?」

「ここに、子を産んだ猟犬の雌がいる。その子犬を何匹か殺し、血をリアンノンの顔と手に塗り、骨を胸元に置こう。自分の子を食い殺したのだと、私たちが言い張るの。六人で誓えば、彼女一人の言葉より強いでしょう?」

女たちはその案に決めた。夜が明けるころ、リアンノンが目を覚まして言った。

「みんな、私の子はどこ?」

「王妃よ、子のことを私たちに聞かないでください」

誕生と償い(4)

「私たちには、あなたと争ってできた痣と打ち傷しか残っていません。あなたほど力の強い女性は見たことがありません。争ってもまるで歯が立ちませんでした。自分の子を食い殺したのはあなたです。私たちに返せと言わないでください」

「ああ、なんということを」とリアンノンは言った。「主なる神はすべてをご存じです。私に偽りの罪を着せないで。すべてをご存じの神は、それが嘘だとご存じです。恐れてそう言っているのなら、私が必ずあなたたちを守ります」

「どんな人のためであれ、私たちは自分に災いが降りかかるようなことはしません」

「お願いです。本当のことを言っても、何の災いも受けないようにします」

リアンノンが穏やかに頼んでも、苦しみながら訴えても、女たちからは同じ答えしか返ってこなかった。

誕生と償い(5)

アルベルスの門の外、馬乗り石のそばに座るリアンノンが旅人に背を差し出し、誰も乗らない
門の償い

するとアンヌンの首領プイスと、家臣や軍勢が起き出した。この出来事を隠し通すことはできず、話は国中に広まり、貴人たちも残らず耳にした。彼らはそろってプイスのもとへ来て、これほどおぞましい行いをした妻とは別れるよう求めた。

プイスは答えた。妻と別れよと求める理由は、これまで子がなかったことのほかにはない、と。

0606

テイールノンと帰還

テイールノンと帰還(1)

「子なら、もう産んだことを私は知っている。だから別れはしない。過ちを犯したのなら、その償いをすればよい」とプイスは言った。

リアンノンは教師と賢者を呼び寄せた。女たちと争うより償いをするほうを選び、課された罰を受け入れた。七年が終わるまで、アルベルスの宮廷にとどまること。門の外の馬乗り石のそばに毎日座り、事情をまだ知らないと思われる訪問者には、すべてを話すこと。そして客や旅人が許すなら、背負って宮廷まで運ぶと申し出ることだった。しかし実際に背負わせる者は、めったにいなかった。こうして彼女はその年の一部を過ごした。

そのころ、グウェント・イス・コエドを治めていたのはテイールノン・トゥルヴ・ヴリアントだった。世にもすぐれた人物だった。その館には一頭の牝馬がいたが、彼の国には牡牝を問わず、これほど美しい馬はいなかった。牝馬は毎年、五月祭の夜になると仔馬を産んだが、その仔馬がどうなったのかは誰にもわからなかった。

テイールノンと帰還(2)

ある晩、テイールノンは妻と話した。

「おい、毎年牝馬に子を産ませて、一頭も手にできないとは、私たちはなんと間抜けなのだろう」

「では、どうすればよいでしょう」

「今夜は五月祭の夜だ。何が仔馬を連れ去るのか、必ず突き止める」

彼は牝馬を屋内へ入れさせ、自ら武具をまとって夜の見張りを始めた。夕闇のころ、牝馬は大きく美しい仔馬を産んだ。仔馬はその場ですぐに立ち上がった。テイールノンが立ってその大きさを見ていると、すさまじい物音が聞こえてきた。

テイールノンと帰還(3)

五月祭の夜、屋内の仔馬のたてがみを窓から伸びた鉤爪が掴み、剣が肘を断ち、戸口に小さな包みがある
窓の鉤爪

物音に続いて、家の窓から鉤爪が伸び、仔馬のたてがみをつかんだ。テイールノンは剣を抜き、腕を肘から切り落とした。腕の一部と仔馬は、彼とともに家の中へ残った。すると今度は、大きな騒ぎと叫び声が聞こえた。扉を開け、音のするほうへ飛び出したが、夜が暗く、騒ぎの主は見えない。それでも勢いよく追跡した。

やがて扉を開け放したままだったと思い出し、引き返した。すると戸口に、絹の外套で包まれ、ゆりかごに入った小さな男の子がいた。抱き上げてみると、その年ごろとは思えないほどたくましかった。扉を閉め、妻のいる部屋へ行った。

「まだ眠っているのか」

「いいえ。眠っていましたが、あなたが入ってきたので目を覚ましました」

「これまで子がなかったが、望むなら、ここにおまえの息子がいる」

「いったい何があったのです?」

テイールノンは、起きたことをすべて妻に話した。

テイールノンと帰還(4)

「その子は、どんなものを着ていますか」と妻は尋ねた。

「絹の外套だ」

「それなら、身分ある人の子でしょう」

二人は土地の習わしに従って子に洗礼を受けさせた。頭に生えた髪が黄金のように黄色かったので、グウリ・ワルト・エウリンと名づけた。宮廷で養育され、一歳になる前にはもう力強く歩いた。体の大きさは、成長の早い三歳児よりも大きかった。二年目には六歳児ほどになり、四年が終わる前には、馬を水場へ連れていかせてほしいと厩の若者たちを贈り物で誘うようになった。

「あなた」と妻はテイールノンに言った。「あの子を見つけた夜に助けた仔馬は、どこにいますか」

「馬番たちに預け、世話をするよう命じてある」

「子を見つけた夜に生まれ、あなたが助けた馬です。乗れるように馴らして、あの子に与えてはどうでしょう」

「異存はない。おまえから与えるといい」

「ええ、そうします」

こうして馬は少年に与えられた。妻は厩と馬の世話をする者たちのところへ行き、馬をよく世話し、少年が乗れるようになるころまでに馴らしておくよう命じた。

テイールノンと帰還(5)

こうしたことが続くなか、二人はリアンノンとその罰についての奇妙な話を耳にした。自分が見つけたものに思い当たるテイールノンは、話へ注意深く耳を傾け、絶えず尋ね続けた。宮廷には多くの人が訪れたので、やがて彼は何度も、リアンノンの災難と罰がどれほど痛ましいものかを聞いた。

テイールノンはこのことを深く考え、少年の顔をじっと見た。これほど父と息子が似ている例は見たことがないと思うほど、少年はアンヌンの首領プイスに似ていた。テイールノンはかつてプイスに仕えていたので、その顔をよく知っていた。少年が他人の息子だとわかりながら手元に置いていることを、彼は心苦しく思うようになった。

初めて妻と二人きりになれたとき、テイールノンは考えを話した。この少年はアンヌンの首領プイスの子なのだから、自分たちが引き留め、そのためにリアンノンほど立派な女性へあれほどの苦しみを負わせ続けるのは正しくない、と。

テイールノンと帰還(6)

テイールノンの妻も、少年をプイスへ返すことに同意した。

「そうすれば三つのものを得られます」と妻は言った。「リアンノンを今の苦しみから救うことで、感謝と謝礼を得ます。息子を育てて返すことで、プイスからも感謝されます。そして三つ目に、少年が心の優しい人なら、私たちを養父母として、できるかぎりのよいことをしてくれるでしょう」

二人はそのとおりに決めた。

テイールノンと帰還(7)

翌日、テイールノンは二人の騎士とともに旅支度をした。少年が四人目の騎手となり、テイールノンから贈られた馬に乗った。一行はアルベルスへ向かい、ほどなく着いた。宮廷のそばまで来ると、馬乗り石の傍らにリアンノンが座っていた。正面まで来たとき、彼女は言った。

「君主よ、そのまま先へ行かないでください。皆さんを一人ずつ、宮廷まで背負います。自分の息子を殺して食べたことへの償いなのです」

「立派な方よ、私たちの誰かが背負われるとは思わないでください」とテイールノンは言った。

「背負われたい人はそうすればいい。私は嫌だ」と少年が言った。

「そうだ。私たちは背負われない」

一行は宮廷へ進み、大きな喜びとともに迎えられた。宮廷では宴が始まろうとしていた。プイスがダイフェズの巡回から帰ったばかりだった。

テイールノンと帰還(8)

一行は広間へ入って手を洗い、プイスはテイールノンとの再会を喜んだ。テイールノンがプイスとリアンノンの間に座り、二人の同行者はプイスの上座側、その間に少年が座った。食事が終わり、酒宴が始まると、一同は語り合った。テイールノンは牝馬と少年の一件を初めからすべて話し、自分と妻が少年をわが子として認め、どのように育ててきたかを語った。

「王妃よ、ここにいるのがあなたの息子ではありませんか。あなたについて偽りを言った者は、ひどい過ちを犯しました。あなたの苦しみを聞いたとき、私は胸を痛め、悲しみました。ここにいる誰もが、この少年をプイスの息子だと認めるはずです」

「疑いを持つ者は誰もいない」と一同は答えた。

「それが本当なら、ようやく私の苦しみから解き放たれる時が来ました」とリアンノンは言った。

「王妃よ、息子をプリデリと呼んだのはみごとです。アンヌンの首領プイスの息子プリデリほど、ふさわしい名はありません」とペンダラン・ダイフェズが言った。

「でも、この子がもともと持つ名のほうが、もっと似合うのではありませんか」とリアンノンは言った。

「どんな名です?」とペンダラン・ダイフェズが尋ねた。

テイールノンと帰還(9)

「私たちは、グウリ・ワルト・エウリンと呼んでいました」

「この子の名はプリデリとなる」とペンダランは言った。

「それがよい」とプイスは言った。「母親がうれしい知らせを受けたときに口にした言葉から、この子の名を取ろう」

こうして少年は、プリデリと呼ばれるようになった。

テイールノンと帰還(10)

「テイールノン、この時まで息子を育ててくれたことに、神が報いてくださるように。この子も心ある人に育つなら、あなたへ報いるのが当然だ」とプイスは言った。

「王よ、あの子を育てた妻ほど、別れを悲しんでいる者は世界におりません。私と妻がしたことを、この子が覚えていてくれるのがよいでしょう」

「誓って言おう。私が生き、自分の領地を保てるかぎり、あなたとあなたの財産を支えよう。この子が私の地位を継いだときには、私以上にあなたを支えるのが当然だ。あなたと貴人たちがよいと思うなら、これからはペンダラン・ダイフェズにこの子を預けよう。あなたが今まで育ててくれたのと同じように。そして、あなたたち二人にも、友であり養父でいてもらおう」

「よいお考えです」と全員が答えた。

少年はペンダラン・ダイフェズに預けられ、国の貴人たちが付き添っていった。テイールノン・トゥルヴ・ヴリアントと仲間たちは、親愛と喜びに包まれて自分の国へ旅立った。誰もが見事な宝や最良の馬、選りすぐりの犬を贈ろうとしたが、彼は何一つ受け取ろうとしなかった。

テイールノンと帰還(11)

アンヌンの首領プイスの息子プリデリは、ふさわしい手厚さで大切に育てられた。やがて王国で最も美しく堂々とした若者となり、あらゆる優れた技にも誰より秀でた。

テイールノンと帰還(12)

こうして一年、また一年と歳月が過ぎ、アンヌンの首領プイスは寿命を終えて死んだ。プリデリはダイフェズの七つのカントレヴをみごとに治め、民にも周囲のすべての者にも愛された。

テイールノンと帰還(13)

その後プリデリは、イストラド・ティウィの三つのカントレヴとケレディギオンの四つのカントレヴを一つにした。これらはセイシルフフの七つのカントレヴと呼ばれる。こうして国を広げたアンヌンの首領プイスの息子プリデリは、やがて結婚しようと思い立った。妻に望んだのはキクヴァだった。島の貴人の一人、カスナル・ウレディグの息子グロイウ・ワルト・スィダン、その息子グウィン・ゴホイウの娘である。

こうしてマビノギのこの枝は終わる。

テイールノンと帰還(14)

こうしてマビノギのこの枝は終わる。

1 / 10%